AIによる生産性向上、その先に何があるのか

AIで作った資料をもらって、それをAIで要約する。私たち、一体何をやっているのでしょうか?DX・AIによる「効率化」の先に、私たちは何を目指すのか。「AIは人間の能力をどう拡張し、進化させていくのか」という視点から、これからのDX・AIと人材育成についてお話しします。


 

AIが突きつけた人の能力限界

AIで作った資料をもらって、それをAIで要約する。
AIで作ったエントリーシートをAIで仕分けする。

そんな効率的なようで非生産的な仕事が、繰り返されている。
それはなぜか。認めたくない事実だが、人間の能力が低すぎるからだ。

数万人が活動する組織は、組織をピラミッド型にして、上司と部下が縦に連なる構造を作る。情報を10人ほどの塊で上の層に上げていき、上からは逆に方針を下ろしていく。
情報を組織内に伝達するために、PPTやExcelで要約し、説明するという工程を何度も繰り返す。だから、組織には資料を作って理解をつなぐ仕事が存在する。

だが、ここで大量の情報を瞬時に処理できる存在が現れた。
それがAIだ。

情報を一括処理できれば、資料で説明する”伝言ゲーム”はいらなくなる。
会議もいらなくなる。ピラミッド型の組織も。報告するためのPPTもExcelも。

さらに、評価シートも面談もいらなくなるだろう。AIは、人間よりも圧倒的に処理能力が高いので、全ての仕事の会話やログから、はるかに公平かつ正確に人を観ることができるのだから。

そうするとここで1つ、我々は不都合な真実に直面する。もはや、組織のネックは人間なのだ。
人間がAIを活用して向上する生産性なんて、たかがしれている。
人間が介入せず、なるべくAIに任せたほうが、はるかに生産性向上が見込めるというのが残酷な現実だ。

……などと考えてみたが、果たして、本当にそうなのだろうか?もう少し深掘りしてみよう。

 

正座とAI、アイデンティティの問題

話はガラッと変わるが、日本人独特の座り方、正座。
実は、その歴史は浅く、江戸時代に生まれた武士の座り方なのだそうだ。
足は痺れるし、機敏に動く姿勢とは程遠い。どうして、戦うことを仕事とする武士がこんな座り方をしたのだろうか。
実は正座が生まれたのは、武士の”アイデンティティの危機”が原因と考えられているそうだ。

平和な世の中になって、戦争という武士の重要な仕事がなくなった。
「なんだ、偉そうにしているけど、俺たちの税金を食い潰すだけじゃないか!」
民衆からはそんな目で見られるようになった。

やがて、武士たちにはこんな感情が芽生えてくる。
「俺たちは特別な存在なんだ」
「痛い思いをしても様式を重んじる、高貴な存在なんだ。お前たちには決してできないだろう…」
そうして武士の仕事に難しいプロセスや作法が増えていった。
実は、正座もその一つだった。

正座は、自分たちの本来の仕事を失った武士たちのプライドの表れであり、
アイデンティティの危機を乗り越えるための心の拠り所として普及したというのだ。

AIと組織の話に戻そう。

AIを活用すると、中間の管理はなくなり、さまざまなことを現場で決めて、
テンポ良く仕事が自律的に動いていくようになるだろう。それがこれからの仕事のやり方だ。
組織の情報をつなぐミドルマネジメントは不要になり、多層ピラミッドの組織が必要なくなった時、人間がそこにいるのは無駄でしかない。
そう。まさに、不要になった武士の気持ちを我々は味わうことになる。

……だが結局、そんな変化は簡単には進まない。進むわけがない。
AIの技術以上に大きな障害、”アイデンティティの危機”の問題があるからだ。

ミドルマネジメント層は、もちろんAIの普及に抵抗する。人間は、自分の仕事に誇りを持っているから。こんなに簡単に自分の仕事を全否定されて、「はいそうですか」と仕事を辞めるわけがない。

以前にも増して、根回しをし、資料を作り、会議を開くだろう。
だって、AIは確実じゃないから、AIは信頼できないから、AIは人を理解していないから。
こういう仕事の仕方には意味があって、これからも必要なのだ、と。

また、トップマネジメント層も、アイデンティティの危機に直面する。
これまでは下から吸い上げた情報を独占し、管理・統制する立場だったものが、
逆に情報弱者(現場のリアリティから最も遠い存在なので)となるのだから。

情報を独占することで権威として奉られていたところから、降りることに耐えられるか。
判断能力の高さを誇り、指示を出す役割でいることを手放せるだろうか。

あと数年経てば、報告のための資料作りも長い報告会議も、決裁のための根回しも、
”正座”のような、無駄で不合理な苦行でしかなくなっているだろう。すでに、そうなっているかもしれない。
しかし、多くの人間は(口には出さないが)それを続けたいと願い、実際続けていく。
自分の存在意義を守るために。

AIは組織の縦構造を壊し、価値創造・価値提供のスピードを上げる。
しかし、それは同時に、組織の「上」にいる者のアイデンティティを無慈悲に叩き潰す。
このときに起こる「アイデンティティの危機」という感情の痛みを和らげることができるか、それがAI時代の大事な仕事となる。

今、見つめるべきはAIか?技術か?
違う。人なのだ。
人間の生々しい感情、不合理な行動。それを深く理解しなければ、
AIの時代に価値のある活動はできない。そうは思わないだろうか。

 

AIは人の進化に使ってこそ活きる

では、AIは人間の敵なのか?そうではないことが分かる面白い例を2つご紹介する。

かの藤井聡太は、AIについて、プレジデントオンラインのインタビューで、このように答えている。

「AIの実力が棋士をしのぐようになった10年ほど前からAIを活用しています。強くなるためのパートナーという感覚もありますし、知見の優れたところを自分で取り入れて実力を高めていきたいという意識で活用しています」
引用:https://president.jp/articles/-/103673?page=1

AIは敵ではなく、強くなるためのパートナー。なるほど。

もう1つ、ソニーコンピューターサイエンス研究所の研究。
熟練したピアニストに対して、5本の指を独立かつ高速に動かせる「外骨格ロボット」を用いて、自力では不可能な複雑で高速な手指の動きをトレーニングするという取り組みだ。

このロボットを装着後に行ったトレーニングでは、頭打ちになっていた技能が向上することが明らかになった。言うなれば、ロボットによって人間の「限界突破」がなされたわけだ。
出典:https://www.sonycsl.co.jp/press/prs20250116/

昨今、AIのトレーニングというと、AIの使い方やユースケースを学ぼう、AIを活用した業務の効率化や自動化を学ぼうなど、そういったものが溢れている。
しかし、人材と組織のプロとして、私が今考えているのは、
その先の「どうやって、AIを使って人間の限界を突破させるか」だ。

藤井聡太が打つ一手は、過去の名人たちが想像もつかないものだし、
ロボットにトレーニングされたピアニストの手によって、これまで誰も演奏できなかった新しい音楽が生まれる。それこそが、AIが作り出す本当の未来だと思う。

ビジネスにおいても、これからの人間は、発想や技能やコミュニケーションの限界を超えていく。そんな進化をもたらすAIの使い方を、模索したいと私は考えている。

 

人間にしかできない”アンラーニング”

「現代における『天動説』、つまり皆が正しいと信じているが、疑うべきと考えることは何か?」

私は、最近の経営幹部研修で、これを必ず問いかけている。
このような問いこそが、AIの時代、我々に求められる究極の能力だと思うからだ。

もし天動説の時代にAIがあったら、果たして地動説に気づけたのか。
試しに、AI(Claude Opus)に聞いてみたところ、このような答えが返ってきた。

(Claude氏談)
正直に言えば、たぶん気付けなかっただろうと思います。そして、その「たぶん無理だった」という認識自体が、けっこう大事なポイントだという気がしています。
天動説は「素朴な観測データに合っていなかったから滅びた」わけではないんですよね。むしろ逆で、プトレマイオスの体系は当時手に入るデータに驚くほどよく合っていた。周転円や離心円を積み重ねれば、惑星の逆行も明るさの変化もちゃんと予測できた。何世紀ものあいだ航海や暦の計算に実用されてきたわけで、「データに照らして正しい説」だったとさえ言えます。
しかもコペルニクスの最初の地動説は、精度の面でプトレマイオスを上回ってはいませんでした。彼自身も周転円を使っていたし、観測との一致はせいぜい同程度。当時の人が「データを見て判断する」という真っ当な態度を取ったなら、地動説に乗り換える理由はほとんどなかったんです。地球が動いているなら年周視差が見えるはずなのに見えない、という地動説への有力な反論もありました(実際には恒星が遠すぎて当時の精度では見えなかっただけですが、これは後知恵です)。

本人(?)も言っているように、できなかった可能性が高い。
では、コペルニクスという人間には、なぜそれができたのか。

おそらく、山に行って自分の目で空を眺めた時、ふと思ったのだろう。
「これ、地球が動いてるんじゃない?」

そして、天動説の複雑な式を見て感じる。
「これは美しくない。この世界の法則は美しいはずだ。」

リアリティを見つめ、自身の美意識に照らし合わせて認識・検証し、確信を持つ力。
それが、訓練データの思考パターンに依存するAIには超えられない壁であり、人間の依りどころなのだ。

言い換えれば、これはアンラーニング。これまでのような情報の繋ぎ手や評価者ではなく、価値を出すための、何を学ぶかではなく、「何を忘れるか」を起点とした思考。

これを身につけるためには、ミドルマネジメントから現場に降り、自分の目で見てリアリティに晒されることや、トップマネジメントとして、コペルニクス的転回を促す問いを立てることが求められる。

2026年時点では、世の中には「業務効率化のためのAI活用術」といった、
マネジメント向けの講座が溢れている。しかし私は、この手のものは早晩姿を消すだろうと予測している。

AIは、こちらが学んで使うものではなく、任せて仕事をさせるものだからだ。
我々人間は「どうやるか」のHowではなく、「何をやりたいか」というWhatにフォーカスすべきだ。

さらにいうと、この「何をやりたいか」というのは突き詰めれば『欲』なのだから、
自分の『欲』と向き合い、健全な『欲』を見つめ、高めていくことが大事なのだと思う。
これからの人間の自分探しは、キャリアではなく、『欲』を見つける旅になる。

 

最後に

「現代における『天動説』、つまり皆が正しいと信じているが、疑うべきと考えることは何か?」

最後に、この質問に対する私なりの答えを提示しておこう。
いくつかあるのだが、その1つは、
『今、我々が見るべきものは、AIではなく、人間である。』としたい。

人間の能力限界を前提とした組織の再構築、
アイデンティティの危機という人間の抵抗をどう回避するか、
そして、AIにはない人間ならではの能力とその進化、
人間の生々しいリアリティに向かい合う。それこそが、AIの時代を生きる術だと思う。

この質問の回答については、ぜひ、みなさまのご意見を聞いてみたいところです。
どうぞご遠慮なく、大城までご連絡くださいませ。
oshiro@tao-partners.com

また直近にはなりますが、10/14(水)11時〜の無料ウェビナーでもこのお話をいたしますので、参加のご検討もよろしくお願いします。

 
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