【AI時代の人材マネジメント③】AIが組織に引き起こす“正座”の問題

AIでフラット化が進めば、ミドルマネジメントは素直に変われるでしょうか。おそらく、変われません。なぜか── 江戸時代の「正座」がヒントです。 AI時代の変革と人事の仕事を考える「AI時代の人材マネジメント」第3回。


 

日本人独特の座り方、正座。
実は、その歴史は浅く、江戸時代に生まれた武士の座り方なのだそうです。しかし、これは変な話だと思いませんか。武士は刀で戦うことが仕事のはず。いつでも瞬時に動けなければなりません。なぜ、こんな動きにくい、足が痛くなる座り方が普及したのでしょうか。

実は、私は、ここにAIとこれからの組織を読み解くヒントがあると考えています。

 

正座が普及したのは、なぜか?

正座には、背筋がピンと伸びて美しいというメリットがあります。しかし、全く動けない。これは武士には致命的です。当初は、主君の前に座るときに、恭順の意を表していたのですが、普及したのは別の理由があったようです。

それは、武士の“アイデンティティの危機”という問題です。

平和な世の中になって、戦争という武士の重要な仕事がなくなりました。
なんだ、偉そうにしているけど、俺たちの税金を食い潰すだけじゃないか。武士はそんな目で見られるようになります。
そんな時、武士たちの中にこんな感情が芽生えます。俺たちは特別な存在なんだ。痛い思いをしても様式を重んじる、高貴な存在なんだ。お前たちにはできないだろう……この頃、武士の仕事の中に、新たな難しいプロセスや作法が増えていきました。正座は、その一つです。

実は、正座は、自分たちの本来の仕事を失った武士たちのプライドの表れ、そのアイデンティティの危機を乗り越えるための心の拠り所として普及したものなのです。

 

AI普及で起きる「アイデンティティの危機」

話をAIと組織に戻しましょう。

このコラムの第1回でこんな話をしました。AIによって、組織の中間で情報をつなぐミドルマネジメントは不要になり、多層ピラミッドの組織は必要なくなります。情報処理能力が低い人間が、そんなことをしているのは無駄でしかないのです。
AIを活用すると、中間の管理はなくなり、さまざまなことを現場で決めて、テンポよく仕事が自律的に動いていくようになるでしょう。

みなさんは、本当にそうなると思いますか?

実は、私は、結局、そんな変化は簡単には進まないと思っています(自分で言ったことを否定して恐縮です)。少なくとも自然発生はしません。それを実現するには、AIの技術以上に大きな障害があるからです。“アイデンティティの危機”の問題です。

 

ミドルマネジメントは、必ず抵抗する

ミドルマネジメントは、もちろんAI普及に抵抗しますよ。人間は、自分の仕事に誇りを持っていますから。こんなにも自分の仕事を全否定されて「はいそうですか」と自分の仕事を辞めるわけがありません。

以前にも増して、根回しをし、資料を作り、会議を開くでしょう。だって、AIは確実じゃないから、AIは信頼できないから、AIは人を理解していないから。こういう仕事の仕方には意味があって、これからも必要なのだと。

 

トップマネジメントも例外ではない

トップマネジメントも、アイデンティティの危機に直面します。これまで、下から吸い上げた情報を独占し、管理・統制する立場だったものが、逆に情報弱者となる(トップマネジメントは、現場リアリティから最も遠い存在ですから)。情報を独占することで権威として奉られていたところから降りることに耐えられるでしょうか。判断能力の高さを誇り、指示を出す役割でいることを手放せるでしょうか。

あと10年経てば、報告のための資料作りも長い報告会議も、決裁のための根回しも、“正座”のような、ただの不合理な苦行でしかなくなっているかもしれません。しかし、多くの人間はそれを続けたいと願い、実際、続けていると思います。そして、そんな非効率な組織は、徐々に衰退へと向かっていく。

 

「感情の痛み」に寄り添うことが、人事の仕事になる

AIは組織の縦構造を壊し、価値創造、価値提供のスピードを上げます。しかし、それは同時に、組織の「上」にいる者のアイデンティティを無慈悲に叩き潰します。このときに起こる「アイデンティティの危機」という感情の痛みを和らげることができるか、それがAI時代の、人事のもっとも大事な仕事になるだろうと思います。

具体的に、どうすれば良いのか。それは第5回で取り上げたいと思いますが(まだ答えはないがヒントはあります)、ここで申し上げたいのは、AI時代の組織変革のカギは、AIの合理性とは程遠いところにあるということです。人の感情に寄り添って、痛みを和らげる役割、これはとても大事です。第2回で申し上げた4つの能力と通じます。人事の仕事がAIでどう変わり、その中でどのように専門性を発揮すべきか、一度、議論してみてはいかがでしょうか。

 
 

👈 前回:【AI時代の人材マネジメント②】 AI時代に求められる4つの能力とは?

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