
| AlphaGoがイ=セドルを破ったあの日から10年。AIは棋士たちに進化をもたらしました。藤井聡太氏の言葉とソニーの研究が示すのは、「AIで人間の限界を突破する」という人材育成の新しい可能性です。コラム特別編「AI時代の人材マネジメント」全5回の第4回です。 |
2016年3月15日、私は韓国にいました。
顧客のソウルオフィス、現地幹部の研修の最中、窓に見えるフォーシーズンズホテルでとんでもないことが起こったという知らせが届きました。囲碁のチャンピオン、イ=セドルがGoogle Deepmindが開発したAI「AlphaGo」に破れたと。
ついに、AIがここまで来たか。これからとんでもないことになるぞ。「この時、この瞬間から世界の歴史が始まる。この場に居合わせたことを自慢することができるだろう。」フランス革命で敵軍として参加し、そう残したゲーテの気持ちでした。非常に興奮したのを覚えています。
あれから10年が経ち、今、皆さんは、囲碁も将棋も、もう人間がAIに勝てないと知っています。囲碁や将棋だけではありません。AIは、その後も我々の想像を超えるスピードで進化を続け、多くの人の仕事を脅かすまでになっています。
AIは、棋士たちに進化をもたらした
ありきたりのAI脅威論? いや、もう少し、お付き合いください。人材育成の仕事に携わるものとして、ここで私が問いたいのは、「AIの出現で棋士のレベルはどうなったか?」ということです。
実は、AIによって、この10年、囲碁も将棋も、とてつもないスピードで新たな打ち方が開発され、棋士のレベルは段違いに上がっているようです。特に、将棋の世界では、藤井聡太という天才が出現しているのは、皆さんもよくご存知ではないでしょうか。
「AIは、強くなるためのパートナー」
藤井聡太氏は、AIについて、プレジデントオンラインのインタビューで、このように答えています。
「AIの実力が棋士をしのぐようになった10年ほど前からAIを活用しています。強くなるためのパートナーという感覚もありますし、知見の優れたところを自分で取り入れて実力を高めていきたいという意識で活用しています」
(出典:プレジデントオンライン)
AIは敵ではなく、強くなるためのパートナー。これからの人材育成を考えるうえで、重要なヒントのように思います。もう1つ、人材育成とAIについて、例をお話しします。
ロボットが証明した「限界突破」
ソニーコンピューターサイエンス研究所が、面白い研究をしています。熟練したピアニストに対して、5本の指を独立かつ高速度に動かせる「外骨格ロボット」を用いて、自力では不可能な複雑で高速度な手指の動きをトレーニングするというものです。このロボットを装着後に行ったトレーニングでは、肉体の限界を超えて、技能が向上することが明らかになりました。言うなれば、ロボットによって人間の「限界突破」がなされるわけです。
(出典:ソニーコンピューターサイエンス研究所)
人材育成が問うべき、その先にある問い
今、AIのトレーニングといえば、AIの使い方やユースケースを学ぼう、AIを活用した業務の効率化や自動化を学ぼう、そういった話が溢れています。それはそれで必要なことでしょう。しかし、人材育成のプロとして、我々が考えるべきことは、その先、「どうやって、AIを使って人間の限界を突破させるか」ということではないでしょうか。
藤井聡太氏が打つ一手は、過去の名人たちが想像もつかないものです。ロボットにトレーニングされたピアニストの手によって、これまで誰も演奏できなかった新しい音楽が、生まれて来るでしょう。
同じように、AIを使ったトレーニングによって、ビジネスにおいても、発想や技能やコミュニケーションの限界を超えていく、そんなことができないかと考えています。
次回(最終回)では、そういった観点から、具体的にAIを使ってどのようなことができるか、これからの人材育成とはどのようなものになるのか、論じてみたいと思います。
👈 前回:【AI時代の人材マネジメント③】AIが組織に引き起こす”正座”の問題

