【AI時代の人材マネジメント①】AIでプレゼンを作るのは本当に効率的か?

「AIでプレゼン資料が5分でできる!」――そんな効率化の話題が溢れる一方で、「それで本当にいいのだろうか」という漠然とした不安を感じている方も多いのではないでしょうか。そもそも資料作りが必要なのは「人間の情報処理能力の限界が低すぎる」から。AIがその限界を超えたとき、組織や仕事のあり方はどう変わるのか。コラム特別編「AI時代の人材マネジメント」全5回の第1回です。


 

AIでプレゼンを作るのは本当に効率的か?

「ChatGPTはもう古い。これからはこれ!」
「AIを使えば、プレゼン資料が5分でできる!」

昨今、ニュースサイトを見ると、AIのトレンドや活用法を紹介する記事が溢れていますが、人事や人材活用に関わる皆さんは、その様子を、どのように捉えてらっしゃるでしょうか。仕事が効率化されるのは良いことだが、それによって人間の仕事に置き換わるとしたら人間は何をすれば良いのだろうか。そんなに仕事をショートカットばかりしていたら、十分なスキルが身につかない社員が増えてしまうのではないか。そんな漠然とした不安や課題意識をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

今回から、コラム特別編として、5回にわたって、「AI時代の人材マネジメント」について考えてみたいと思います。世の中でよく言われているお話の、もう少し先まで考えてみたいと思いますので、ぜひお付き合いくださいませ。

では、まず前段の「AIでプレゼンを作る」ということから、お話を始めていきましょう。

 

なぜ、毎日資料ばかり作っているのか

そもそも、なぜ、PPTやExcelを使って資料を作る必要があるのでしょうか。上司や他の人に、報告したり、プレゼンして承認を取る必要があるから?では、なんでそんな活動が必要なんでしょうか。実はそれは、突き詰めれば、人間の経済活動の大きさに対して「人間の情報処理能力の限界が低すぎる」からなんです。

人間は、相当有能な人でも、10人程度の情報をマネジメントするのが限界と言われています(正直、私の限界は10人よりもかなり低いです)。だから、数万人数十万人が活動する大企業では、組織をピラミッド型にして、上司と部下が縦に連なる構造を作ります。情報を10人くらいずつの塊でまとめて、上に上げていく訳ですね。

また、一定の人数分の情報を上げる時には、必ず編集が必要です。すべての情報をそのまま上げても、当然処理できませんから、PPTやExcelでわかりやすく情報の要点をまとめ、会議や報告会を開いて、説明する必要があります。巨大な組織になると、この活動が何度も何度も繰り返されて、情報は形を変えて組織の中を移動し、いろいろな判断の材料として使われます。そして、このような組織の情報流通のために、資料を作って理解をつなぐだけの仕事が大量に存在することになります。

なんで、こんなに毎日、資料ばかり作っているんだろうか?この仕事にどんな意味があるのだろうか?疑問を感じている人は多いのに、そんな資料作りの日々が毎日繰り返されているのが現実です。それはなぜでしょうか?それは、私も認めたくない事実なのですが・・・結局、『人間の情報処理能力の限界が低すぎるから』ですよね。

 

AIが変える組織の”常識”

しかし、今、ここに、人間よりも遥かに大量の情報を瞬時に処理できる存在が出現しました。
そう、AIです。

AIを活用すれば、全社の大量の情報を一括処理できますので、ピラミッド型の組織はいりません。情報を分かりやすい資料に加工して説明して、少しずつ上に上げるなんて作業は要りません。だから、報告するためのPPTもExcelもいらなくなるでしょう。だって、これらのものは全て、「人間の能力限界」という制約のために必要だったものですから。人事では、評価シートも面談もいらなくなりますね、AIは全ての仕事の会話やログから、人間よりもはるかに公平に、はるかに正確に人を観ることができるでしょうから。

そんなのSFの世界だ。今のAIではそこまでできない。失業の問題もあるので、社会がそれを許さない。確かにそういう意見もおありでしょう。しかし、私の話が些か極端だとしても、これから、いくらかはそういった世界に近づいていくと思いませんか?

 

AIで作った資料を、AIで要約する──我々は何をやっているのか

今は、まだ、担当者がAIを使って資料を作って、作業を効率化している段階です。しかし、その資料を受け取った上司はその資料をどうしていますか?気の利く上司は、それをAIで要約して確認します。そして、それをさらにAIで資料化して、上の上司に・・・

今、学生は、当然AIでエントリーシートを作ります。受け取った企業は、AIでそれをスクリーニングします。そしてAIを使って面接というのも始まってますね。我々、何をやっているんでしょうか。このAIの使い方を続けても意味がないと感じ始めた時、「人間の能力限界」こそが非効率を生んでいる、言い換えれば、ボトルネックは人間だということに我々は気づくのではないかと私は思います。

我々は、「人間の能力限界」を残したまま、部分的にAIを使い続けるのでしょうか。それとも、人間とAIが役割分担する組織というものを再発明することになるのでしょうか。

そんな課題意識から、このコラムを書いてみようと思いました。これから5回に渡り、本格的なAIが普及する時代に向け、我々の組織や人材マネジメントのあり方がどのように変わっていくかを考えてみたいと思います。

 

「AI時代の人材マネジメント」連載予告

簡単に予告をしておくとテーマは、以下のとおりです。

次回、第2回は、AIが本格的に機能し始めた時の組織のあり方について考えたいと思います。
私は、中間の情報のエスカレーションが必要なくなった時、中間組織はAIで効率化され、組織図の上と下にだけ人間の仕事が残るのではないかと考えています。組織図の上、ビジョンや価値観のコンセプトメイクの世界、一方で組織図の下のところ、現場リアリティの世界、つまり顧客接点のコミュニケーションや職人の世界です。そんな新しい組織観を詳しく解説したいと思います。

第3回は、AIの時代に備えて、人間が伸ばすべき能力についてです。
コンセプトメイク、そのためのAIを使った創造性の発揮に必要なのは、オタク力とフィジカルコミュ力の併存と考えています。AIは情報の組み合わせを高速で行えるため、実は創造性に優れます。これを使って人間が力を発揮するには、AIとともにしつこく突き詰め追求する力「オタク力」が必要です。さらに、その発揮の原点にあるのは追求する「欲」です。薄く理解する、タイパ重視で学ぶ、そういった考えは命取りです。
もう1つは、フィジカルコミュ力。つまり、空気を読む力、縁を繋ぎノリを作る力。AIによって人が言ったことは記録され、瞬時に分析される時代。言ったことではなく「言ってないこと」こそが大事です。「隠れた情報」「フィジカルな情報」を手にいれるのは、縁やノリの中で行う活動しかありません。

第4回は、AIを使った人材育成の可能性についてです。
囲碁や将棋の世界では、近年、歴史上の「天才」が次々に出現しています。これはAIの仕業です。プロのピアニストの指をロボットで強制的に動かすという実験の結果、運指技術の限界突破が起こっています。これから、史上誰も演奏できなかった音楽が演奏される可能性があります。現在のAIは、効率化に使われていますが、その次のフェーズ、AIを使った人間の限界突破の方法を考えてみたいと思います。

第5回は、より実務テーマに落とした研修の企画例についてです。
私の専門分野として、新人研修、マネジメント研修、経営者育成研修、さまざまな研修にどのようにAIを使っていくかをお話したいと思います。AIの時代に適応するための研修だけでなく、AIを使った研修です。AIによる業務効率化は、単純な仕事によって学ぶ経験を、若者から奪います。これは、これから深刻な問題となるでしょう。しかし逆に、AIによって高速に経験を蓄積したり、習慣定着を行ったり、経験を補うこともできるのではないかと思います。また、管理職については、通常はフィードバックを受けられない部下からのフィードバックをAIを使うことで受けることができるようになります。そして、AIと分担する人間の役割をさらに高めるため、人間力・リベラルアーツの学習も必要でしょう。比較的、実務に近い具体策を述べて、この特集を締めくくりたいと思います。

AIは文字通り、日進月歩で進化を続けており、それとともに私の考えも日々変わっていっています。そのため、今後、より重要なテーマが出てくれば、テーマを変える、増やすことになるかと思います。そこは、ご了承のほど、お願いいたします。

最後に、この論考は、AIを使わずに自分の手で書きたいと思います。AIにはできないことをやりたいという、プライド、意地、それはまさに人間がAIと共存するために最も大事なもの、「欲」ですので。

次回以降も、ぜひ、ご期待くださいませ。

 
 

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